小説、その2「井森家の記憶」

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2021年5月のブログ記事

  • 井森家の記憶(第57回)

    第57回(5/31)  親は長男の兄を大事にし、可愛がりすぎたのかもしれない。  二十年前に父が、その六年後に母が他界し、で、空き家となった親の家を兄が数年間管理していたが、ある日、兄が、「これ以上、親の家を維持できない」と、親の家を売った。  その時、姉が私の耳に、「親の家は借地権があった、正樹... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第56回)

    第56回(5/26)  親が建てた大和の家に無償で住んでいた兄夫婦だったが、父が死去する十年前から借地ながら親の敷地続き、六十坪の土地に三十坪の二階家を新築して、居を大和から保土ヶ谷に移した。  親としては兄夫婦が自分たちの側にいたら、老後が安心、と、踏んだのだろう。  父がこう言った。 「四人い... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第55回)

    第55回(5/22)  兄は四歳上の姉の言うことはよく聞いたが、二歳下の私には言いたい放題だった。  肺がんで七十二歳で逝った兄だが、たぶんその年まで一生分を食べて、一生分を飲んで、一生分を友人たちと群れて、一生分の言いたいことは吐いたのではないだろうか。  外見は父に似てない兄だったが、外面が滅... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第54回)

    第54回(5/18)  両親は井森家の長男、兄の正樹に夢を託し、期待した。  学歴がない父は兄にどうしても大学卒の学歴をつけたがった。兄もまた親の期待に応えて、中学、高校と勉学に励み、現役で明治大学工学部に合格した。大学生を息子に持った母の喜びようはひとしおだった。  母はどこの誰でも、その場で出... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第53回)

    第53回(5/16)  兄嫁は40歳の時に乳がんに罹患して、北里大学病院で手術を受けた。  後日、兄はその時のことをこう述べている。 「ふたりの子供はまだ小学生だった、どぉーしていいのか、途方に暮れた」  その時、私は兄と同じくふたりの小学生の子供がいたので、我が日常を営むことで精一杯だったので、... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第52回)

    第52回(5/14)  二十一歳で結婚して井森家を出た私は、それから実家には足繁く通ったが、会社員の兄とあまり会う機会がなかった。  兄の結婚は私が長男を妊娠中の時だった。相手は私と同じ年で、父が同じ職場に勤務していた事務員の彼女をいたく気に入り、父が兄にその彼女との結婚を勧めたので、兄が、「あぁ... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第51回)

    第51回(5/11)  肺がんで余命宣告された時、兄の体重は九十九キロだった。  昔から食欲旺盛だった兄はよく食べたせいか、両親は揃って背が低いのに、身長が百七十五センチまでのびた。  井森家では母が子供たちのおやつを一人分ずつ新聞紙にくるんで、食卓の上に置いていた。  私は毎日そのおやつを、今日... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第50回)

    第50回(5/8)  兄嫁の一周忌が済むやいなや、兄に肺がんが見つかった。 「オレと一緒に病院に行って、先生の話を聞いてくれや」  兄に頼まれた私は指定された日時にY市立病院に赴いた。  病院に行くと兄の長男、K男も来ていた。 「M子は?」  兄は子供がふたりいる。長女のM子は兄と同居している。兄... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第49回)

    第49回(5/4)  兄嫁の葬儀は盛大だった。喪主の兄、姉夫婦、私たち夫婦、その時は健在だった兄嫁の弟、兄夫婦の知り合いなどで、弔問者は200名ほどだった。  自宅風呂場で溺死した兄嫁は不審死だったため、救急車で病院に運ばれた後、警察で解剖となった。階段で転落死した兄嫁の弟も不審死だったので解剖と... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第48回)

    第48回(5/1)  姉は2019年3月3日に享年76歳で、兄はその3か月後の6月26日に享年72歳で没した。  その1年前、2018年12月には兄嫁が享年69才で自宅風呂場で溺死した。その死から半年後の5月には兄嫁の弟、享年65才が階段から転落して急死した。  この次々と起こった死の始まりは、父... 続きをみる

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