小説、その2「井森家の記憶」

よろしかったら、読んでください

2021年6月のブログ記事

  • 井森家の記憶(第65回)

    第65回(6/25)  父は女房子供の前では気難しい顔をして、笑顔を見せなかった。その父が兄嫁がその場に加わると、気難しい顔を解いたのは、たぶん我が老後を兄嫁に託すつもりだったので、気を遣ったせいかもしれない。  私自身は実家の隣りに兄が住み始めてから、兄は随分と父に援助してもらってる、長男として... 続きをみる

    nice! 3
  • 井森家の記憶(第64回)

    第64回(6/23)  清潔好きだった父が、なぜこざっぱりさせない兄宅を黙認していたのかは不可解だが、たぶん父は自分が夫婦にしたゆえ、己のメンツゆえに夫婦揃って掃除能力が欠如した兄夫婦に文句のひとつも言えなかったのだろう。  母は父に、「あんな女を正樹にくっつけて」と、文句を垂れていた。が、どこま... 続きをみる

    nice! 3
  • 井森家の記憶(第63回)

    第63回(6/20)  と、なると、父がいたく気に入って、息子の嫁にと、半ば強引に兄と結婚させたのだが、兄宅がゴミ屋敷化したのは、昔から家事能力が欠如していた兄嫁を父が見抜けなかったせいかもしれない。  その父はといえば神経質が服を着ているような人間だった。  父は自分の持ち物の置き場所として、洋... 続きをみる

    nice! 3
  • 井森家の記憶(第62回)

    第62回(6/17)     兄一家が大和に住んでいた頃、私は一度だけ兄宅を訪問したことがあった。  二階建てで、二階は和室がふた間、一階は六畳の和室とキッチンだった。  一階の和室が茶の間になっており、炬燵が据えてあったが、ほつれた炬燵布団から綿がはみ出ていた。  炬燵には顔だけ出した娘、M子が... 続きをみる

    nice! 3
  • 井森家の記憶(第61回)

    (9)なぜゴミ屋敷に? 第61回(6/15)  兄嫁と私の関係は、ふた親が元気な頃はどこにでもあるような義姉妹だったと思う。  その関係がぎくしゃくし始めたのは、親が要介護状態になってからだと、思う。  娘の私としてはつい我が親のことを悪く言ってしまうものの、そこは血の繋がった親子だからこその甘え... 続きをみる

    nice! 3
  • 井森家の記憶(第60回)

    第60回(6/10)  兄宅はM子の捨てられない物たちが、アリ塚のようにあちらこちらで円錐形の山を作っていた。  その高さはダイニングテーブルが埋まるほどだから、一メートル以上だろう。  後日、そのアリ塚の正体を見た私は、M子が十代の頃に身に着けたと思われる、あの頃より体重が増した現在のM子には片... 続きをみる

    nice! 4
  • 井森家の記憶(第59回)

    第59回(6/7)  兄は未婚の娘(47歳)と同居していたが、ふたりの仲は険悪だったらしく、兄は、「出ていけ!」の言葉を何度も投げたらしいが、娘のM子は家に一円も入れずに居座り続け、ついにふた親ともが没した今、親が残した家でひとり暮らしをしている。  さて、住職さんのお茶の用意をしようと台所に立っ... 続きをみる

    nice! 4
  • 井森家の記憶(第58回)

    第58回(6/3)  親が更地にした六十坪の土地に兄は三十坪の家を建てて、大和から保土ヶ谷に居を移した。  兄宅は保土ヶ谷駅から徒歩十分、保土ヶ谷駅は横浜駅から電車で五分、門と塀があり、外から見れば閑静な住宅地に溶けこんでいた。  父の死後、ひとり暮らしになった母が心配で、我が家から実家まで二時間... 続きをみる

    nice! 5