小説、その2「井森家の記憶」

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井森家の記憶(第97回)

第97回(11/15)
「家事能力が著しく欠如してるM子ねぇー」
「叔母のあたしらにまったく心を開かない、あの娘ねぇー」
 病床の姉と古希を過ぎたがんサバイバーの私が、M子のことをいくら思案しても、今更、50歳の人間をしつけ直すのが無理というもので、名案など浮かびようがない。
 M子は未婚で五十歳、システムエンジニアをしてるらしい。
 兄の子供は娘と息子がひとりずつだが、私が思うに息子のK介は常識を備えているが、娘のM子は生活能力が欠けているようだ。
 K介は、「この汚い家にいると病気になってしまう」と、10年前に兄宅を出て、現在は横浜のマンションでひとり暮らしをしている。
 兄亡きあと、兄宅に残るのはM子なのだが、K介によるとM子は、「姉ちゃん、この10年間掃除をしたことがない、この5年間台所で料理をしたことがない」と。
 K介の言葉は正しくその通りで、私が20年振りに兄宅に上がったのは、兄嫁の死から半年経った新盆だったが、室内はゴミ屋敷状態だった。
 その惨憺たる光景を目にした私は、あぁー、この家では病気になる、と、K介の言葉に大いに納得したのだった。
  兄宅は横須賀線保土ヶ谷駅から徒歩10分の閑静な住宅地にあり、敷地60坪に建坪
30坪の築20年の二階建て、塀の外から見れば立派な家なのだが、一歩室内に足を踏みこめば、そこは整理整頓、掃除をまったく忘れたゴミが溢れた家だった。
 K介はこうも言った。
「片づけても、片づけても、姉ちゃんが次から次へと物を買って、捨てると怒る」
                      (続く、第98回)