小説、その2「井森家の記憶」

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井森家の記憶(第100回、最終回)

第100回(11/27)
 兄には娘と息子、ふたりの子供がいる。が、ともに未婚で、50歳のM子にはもはや子供は望めず、ならば、45歳のK介は今からでも妊娠可能な若い女性と結婚すれば、井森家の跡継ぎ誕生かもしれないが、果たしてどうなるのだろうか。
 井森家三代の歴史を知っている私としては、このK介の証言を納得せずにはいられない。
「この家を一番汚すのは姉ちゃんです。仕事はシステムエンジニアだけど、この20年間掃除をしたことがなく、この10年間は料理をしたこともありません。そして、次から次へと物を買い、古着や不要品を処分出来ません。処分すると怒ります」
 ということは、兄宅をゴミ屋敷にする張本人はM子だったが、M子については今まであまり接触がなかったせいか、よくわからん相手なので、何とも言いようがない。
 兄夫婦は他界、K介は別居で、今のM子はどんなに我が住居をゴミ屋敷にしようと、お勝手にどうぞ状態で、残念ながら今のところ、そのM子を教育し直そうとする勇者は現れていないようだが、叔母の私としてはいつの日かM子に家事教育を施す者が現れてくれることを祈るばかりである。
 井森家があった場所は今、他人様の駐車場となっている。その土地に目をやる私は、それぞれが懸命に生きた井森家の者たちに拍手を送らずにはいられない。
 借地ながら横浜に100坪の土地を手に入れた祖父母。
 自宅以外に40坪の土地を所有して、そこに家を建てた両親。
 井森家の者たちは頑張って頑張った末、長男の兄に家督を譲ったのだが、どこの誰が今現在の井森家を想像しただろうか。
 来世の井森家の人々は現世での恨み、憎しみをすべて消し去って、温暖の地で色とりどりの花たちに囲まれて、にぎやかに談笑の日々を送っていることだろう。
 たぶん、
 きっと。
       ー 了 ー