小説、その2「井森家の記憶」

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井森家の記憶(第48回)

第48回(5/1)
 姉は2019年3月3日に享年76歳で、兄はその3か月後の6月26日に享年72歳で没した。
 その1年前、2018年12月には兄嫁が享年69才で自宅風呂場で溺死した。その死から半年後の5月には兄嫁の弟、享年65才が階段から転落して急死した。
 この次々と起こった死の始まりは、父の十七回忌の法事があった直後からだった。
 法事に参加したのは、姉夫婦と兄夫婦と私ら夫婦だったのだが、2014年に卵巣がんステージ3になった私は、このメンバーのなかで次に逝くのは自分だ、と、思っていた。
 その日、私は抗がん剤の副作用で足が痺れており、自宅から法事場所の瀬谷まで徒歩と電車で行く自信がなく、タクシーを利用したのだった。
 その折り、5年振りに会った兄嫁を見た私はその姿に仰天した。
 首は前に垂れ、背にはラクダのようなこぶ、腰は曲がっており、足は満足に歩けなかった。
 その時、兄嫁は69才だったのだが、今時、九十歳の老婆でももっと増しな姿だろう、だった。
 兄嫁は30代の頃、乳がんの手術をしていたが、それにしても、この老躯は?! と、首を傾げずにはいられなかった。
 井森家の墓碑へ行くには数段の石段を上がらなければならないのだが、私はその階段で、兄嫁に自分の肩を貸さずにはいられなかった。
 寺での法要の後は、三組の夫婦がカニ料理屋に場所を移して、カニのフルコース料理を和気あいあいと楽しんだ。
 父の命日は12月12日なので、法要が行われたのはその数日前だった。
 その法事の1週間後、身体が相当弱ってる、と、案じていた兄嫁が、自宅風呂場で溺死したのだった。
 兄嫁が死去したその日はものすごく寒い日だった。
     (続く、第49回)