小説、その2「井森家の記憶」

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井森家の記憶(第99回)

第99回(11/23)
 その父はこの世を去る間際にこう言った。
「オレの嫁選びは間違ってた」
 が、時、既に遅し。
 父は84歳のある日、母が入院中に風邪をひき、宅配弁当を3日間口にしないまま、肺炎と脳梗塞と腎不全の3つの病気を併発して、あっけなく人生の幕を閉じた。
 自分の行く末を案じていた父は、質素倹約に徹していたが、その蓄えを使うことなくあの世に旅立ったのだった。
 思えば、自宅風呂場で急死した兄嫁と近しい3人はいずれも急死に近い状態で逝っている。
 兄嫁の父親は若い頃勤務中に事故死。
 兄嫁の母親の晩年は歩行困難状態だったが、ある日、自宅で死去。
 兄嫁の弟は兄嫁の死から半年後に階段から転落死。
 私自身は長患いはしたくないが、残された者たちに悔いを残す逝き方は出来れば避けたい、と、念じている。


 井森家の跡継ぎ、長男の兄は2年前に肺がんで逝ったが、がんが発覚した時は手遅れで、医師に余命半年と宣告された。
 両親亡きあと、井森家は長女の姉が旗振り役をしていたが、その姉も兄の死の3カ月前に病死した。
 S家に嫁いだ姉は4人の子供を設けた。子供たちは4人ともが優秀で性格がよく、結婚しており、孫は6人で、S家は繁栄の一途をたどっている。
 H家に嫁いだ私はといえば、2人の子供を設けて、2人ともが結婚して孫が3人いるから、まずまずH家を繁栄させた方だろう、と、独断と偏見で思っている。
(続く、最終回、第100回)