第13回(11/29) 明枝の告別式から自宅に戻った真央は、リビングのソファーに深く腰を沈めて、ぼんやりと目を窓の外にやって町の灯りを眺めていた。 夫が事故死してからひとり暮らしとなった。夫が生存中は郊外の一戸建てに住んでいたが、女ひとりでは家の維持がたいへんと、最寄り駅までバスで三十分、徒歩... 続きをみる
2019年11月のブログ記事
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第12回(11/27) 「もしもし、伊吹ですが、夜、遅い時間に電話して申し訳ありません。今、大丈夫ですか?」 時計の針は午後十時を指していた。 「いいですが、何か?」 富由美はこんな遅い時間に電話をよこしてくるだから、よほどの用事かと身構えた。 もしやプロポーズかもしれない、だが、富由美は... 続きをみる
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第12回(11/26) 「もしもし、伊吹ですが、遅い時間に申し訳ありません。今、大丈夫ですか?」 時計の針は午後十時を指していた。 「いいですけど、何か?」 富由美はこんな時間に電話をしてくるだから、よほどの用事かと身構えた」 「実は、兄と暮らしている四国在住のお袋の具合が急に具合が悪くなり... 続きをみる
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第11回(11//23) 明枝の告別式から自宅に戻った富由美は独居暮らしの家をやけにうら寂しく感じていた。 今は十二月で本日の外気温は五度で、北風が吹いている。 この家は土地が六十坪、建坪が三十坪、築四十年の古い一戸建てだ。 母が達者な頃は庭に四季折々の花を咲かせ、家庭菜園で野菜を作って... 続きをみる
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第10回(11/21) 義母は口八丁手八丁だったのだが、達者な頃は、「あたしは心臓弁膜症、ころりと逝くから安心しな、絶対、あんたの世話にはならない!」と、嫁の春子に豪語していたのだが、六十九歳で認知症を発症し、それ以降はひとの世話にならなければ生きられない身となって、十七年間の要介護年数を要して... 続きをみる
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第9回(11/19) 以前も同じ症状で一週間ほど入院した際は、死にそうもない、入院している間はゆっくりさせてもらおう」と、自宅でくつろいでいた春子に、昭夫は病院から何度も電話をかけてきて、「あれ持って来い、これ持って来い」で、結局、春子は連日、昭夫の病室に請われた物を届けに行ったのだった。 昭... 続きをみる
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第8回(11/ 18) 救急車で運ばれる昭夫は、血圧が急降下し、出血量が多くてひどい貧血で、一緒に救急車に乗りこんだ春子は病院への移動中、救急車のなかで昭夫の死を近くに感じて、葬儀の手筈を考えていた。 長男の嫁の春子は義父と義母を見送っているので、葬儀の手筈は熟知している。 医師に、「ご臨終... 続きをみる
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第7回(11/15) 翌朝、夫の昭夫に元気がない。 「朝ご飯は食べない、もう少し横になってる」 トイレから出てきた昭夫が力なく言った。 昭夫は元々食が細いうえに、痩せ体質でいくら食べても太らず、食べないと痩せる。 春子はといえばその反対で、食べれば太り、食べなくとも痩せない。 「また、下血... 続きをみる
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第6回(11/ 11) 昭夫と春子は結婚してから来年で五十年になる。世間では五十年だと金婚式でお祝いをするそうだが、春子は絶対に金婚式のお祝いなどしない、と、誓っている。 なぜなら昭夫との結婚生活はただ長かっただけで、その間、ただわけもなく、五十年という年が惰性で続いてきただけで、春子はこの五... 続きをみる
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第5回(11/9) 会社員時代の夫は、朝早く家を出て、帰宅は大概午後十時をまわっていた。それも酒に酔っての帰宅だったので、春子は夫に家庭のこと、近所付き合いのこと、などを相談しても、夫が真剣に耳を傾けてくれそうもないので、いつのまにか夫に家庭のことを話すことをやめるようになっていた。 会社員時... 続きをみる
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第4回(11/6) 「ねぇーねぇー、明枝の息子さん、近いうちにニューヨークに転勤だそうよ」 「それって、誰に聞いたの?」 真央の話が寝耳に水だったので、春子は問いた。 明枝と真央は同じ年の息子がいるので、彼女たちは息子たちが幼少の頃は、お互いの家を行き来していたのだが、息子たちが中学生になった... 続きをみる
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第3回(11/4) 富由美の母親は気丈な働き者で、倒れる寸前まで家事のすべてを担っており、富由美の下着まで洗ってくれたという。未婚の富由美は母親が達者な頃は家事のかの字もしなかった。 春子はそんな富由美に思う。 富由美は達者で長生きをした母親のDNAを受け継いで、きっと最後まで元気でころりと... 続きをみる