小説、その2「井森家の記憶」

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2021年11月のブログ記事

  • 井森家の記憶(第100回、最終回)

    第100回(11/27)  兄には娘と息子、ふたりの子供がいる。が、ともに未婚で、50歳のM子にはもはや子供は望めず、ならば、45歳のK介は今からでも妊娠可能な若い女性と結婚すれば、井森家の跡継ぎ誕生かもしれないが、果たしてどうなるのだろうか。  井森家三代の歴史を知っている私としては、このK介の... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第99回)

    第99回(11/23)  その父はこの世を去る間際にこう言った。 「オレの嫁選びは間違ってた」  が、時、既に遅し。  父は84歳のある日、母が入院中に風邪をひき、宅配弁当を3日間口にしないまま、肺炎と脳梗塞と腎不全の3つの病気を併発して、あっけなく人生の幕を閉じた。  自分の行く末を案じていた父... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第98回)

    第98回(11/20)  生存中の兄嫁は自宅に私を上げなかった。が、兄嫁が逝った半年後の新盆で兄宅に上がった私は、そのあまりに荒れ果てた室内に目を丸くした。  その家の台所では数時間後に来訪する住職さんのお茶の用意ができなかった。  この汚い台所で足腰が不自由だった兄嫁は何を調理し、何を口にしてい... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第97回)

    第97回(11/15) 「家事能力が著しく欠如してるM子ねぇー」 「叔母のあたしらにまったく心を開かない、あの娘ねぇー」  病床の姉と古希を過ぎたがんサバイバーの私が、M子のことをいくら思案しても、今更、50歳の人間をしつけ直すのが無理というもので、名案など浮かびようがない。  M子は未婚で五十歳... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第96回)

    第96回(11/12)  姉が逝った2019年3月はコロナがこの世界に蔓延することになろうとは夢にも思ってなかった時だった。姉の葬儀は800名の方が焼香に訪れてくれた。  他界直前の姉はK大学病院の個室に3か月間入院していた。何回か見舞った私は、庶民のではとても手が届かない1日5万円也の病室を拝見... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第95回)

    第95回(11/3)  兄嫁は40歳の時乳がんになってK大学病院で手術を受けた。手術の日、私は病院に足を運んだが、兄嫁と同じ年、30年前の私は日々の生活を送ることに必死で、乳がんに罹った妻を持つ兄の心境を思いやる心の余裕がなかった。  乳がんになった兄嫁はそれから再発も転移もなかったが、冬の寒いあ... 続きをみる

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  • 井森家の記憶(第94回)

    第94回(11/1)  女同士の姉と私は喧嘩しいしい結婚後も付き合っていたが、男の兄とは結婚後の付き合いはあまりなかった。  現役時代の兄は会社の仕事で平日は忙しく、休日は兄も私もそれぞれの家族と過ごしたので、付き合う機会があまりなかったからだ。  兄と顔を合わせるのは親戚の結婚式か葬式か法事だっ... 続きをみる

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