小説、その2「井森家の記憶」

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2019年12月のブログ記事

  • 古希の三人娘(第25回)

    第25回(12/29) 「忙しいところ、お呼びだてして申し訳なかったわね」 「いいのよ。ちょうど、あたしの方も真央さんと会って、話したいことがあったから」  富由美と真央は夢が丘駅近くのファミリーレストランにいる。  富由美はステーキ定食、真央はハンバーグ定食を注文した。 「最近、肉より魚がよくな... 続きをみる

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  • 古希の三人娘(第24回)

    24回(12/27)  真央は富由美に電話をかけた。 「もしもし」 「今、大丈夫?」 「家にいるから大丈夫よ、それこそ、あたしこそ、今、真央さんに電話しようとしたんだけど、あれっ! ちょっと待ってよ、また海外旅行で日本を留守にしてるかも? と、電話をかけるのをやめてたところ。以心伝心ね、ところで、... 続きをみる

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  • 古希の三人娘(第23回)

    第23回(12/25)  だからして、嫁の親に気に入られて婿養子のようになって、嫁の親の敷地内に新居を建ててもらい、普通のサラリーマンならマイホームを持つのが一生の仕事なのだが、その経済的な負担がないので、金銭的にはかなり余裕のある生活をしているらしい。  嫁は正社員で結婚後も子供が出来てからも仕... 続きをみる

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  • 古希の三人娘(第22回)

    第22回(12/24)  その悠太に真央はこう答えた。 「お母さんはもぉー七十、今は何とかひとりで暮らせてるけど、いつ何どき何が起きてもおかしくない年、その証拠につい最近、友達のなかで一番元気だったお母さんと同じ年、明枝さんが病気になって、あっという間に亡くなってしまったのよ」 「明枝さんって、俺... 続きをみる

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  • 古希の三人娘(第21回)

    第21回(12/19)  結婚前は母親思いだった悠太だが、結婚後は嫁と我が子が大事で、我が家庭第一となった。母親など視野の外になった悠太には大いに失望したが、よくよく考えてみれば、所帯を持った男が我が家庭が一番になることは好ましいことではないか、で、真央は悠太が結婚するまで子離れしていなかった自分... 続きをみる

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  • 古希の三人娘(第20回)

    第20回(12/16)  真央は自宅マンションで、明枝が逝ってから三カ月が経った、と、灌漑にふけっていた。  真央は海外旅行のドイツから帰国するやいなや、ひとり息子の悠太からこんな電話をもらった。 「あいつはわがまますぎる、一緒に暮らすのはもぉ―嫌だ、離婚して、母さんのところに行っていいか?」 「... 続きをみる

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  • 古希の三人娘(第19回)

    第19回(12/13)  卵巣ガンの手術から五年、今のところ、再発や転移がなく、健康診断結果はすべての項目が異常なしで、骨粗鬆症でもなく、血管年齢も年より若く、脳梗塞や心筋梗塞の心配はなし、で、経過観察期間中の五年間は死を意識しない日はなかったのだが、昨今は、快食快便快眠で、死が遠ざかっていると感... 続きをみる

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  • 古希の三人娘(第18回)

    第18回(12/10)  卵巣ガンの手術で入院中、夫の昭夫はまったく当てにならないので、春子は使い捨てにしてもいい格安の下着を二十枚買って、病院に持参した。  昭夫は連日病院にやってきたが、春子を喜ばせる台詞を吐くでもなく、ほんのわずかの時、病室にいて帰るのだった。  その昭夫がある時、「何か、用... 続きをみる

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  • 古希の三人娘(第17回)

    第17回(12/8)  若い日は頭も体も動きが速かったせいか、一日が長く感じられたが、高齢者となった今は、一日に三食用意して、食べて、歩かないとたちまち足腰が弱るので、散歩や買い物で一日に二回は外に出るので、一日があっという間に過ぎる。  買い物も若い日はいっぺんにたくさん買っても容易に自宅に運べ... 続きをみる

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  • 古希の三人娘(第16回)

    第16回(12/6)  人口肛門は自分で排便のコントロールができない。便は腹の上に貼ったパウチというビニールの袋に溜めるのだが、パウチがなければ腹の上に垂れ流しとなってしまうので、人口肛門者にとってパウチは必須品である。  春子の人口肛門はへその左側に腸の先を出す穴を開けて、その腸の先から便がころ... 続きをみる

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  • 古希の三人娘(第15回)

    第15回(12/3)  明枝の死から三カ月が経った。春子は日々の生活に追われており、日ごとに明枝のことが頭から去りつつある。  そして、最近は、人間、死んでしまえばお終いよ、生きてるうちが花なのよ、と、思うようになっている。  春子は五年前にステージ三の卵巣ガンなって、六時間半に及ぶ大手術をした。... 続きをみる

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  • 古希の三人娘(第14回)

    第14回(12/1)   夫と仲が悪く、いつも別行動だった真央は、いつも一緒で仲がよかった明枝夫婦がうらやましかった。あの夫婦はよほど相性がよかったのだろう。  明枝は女性の平均寿命の八十七歳まであと十七年もあって逝くには少しばかり早い年だったかもしれないが、素敵な家族に囲まれて幸せな結婚生活を過... 続きをみる

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