小説、その2「井森家の記憶」

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井森家の記憶(第93回)

第93回(10/26)
 その姉は65歳で糖尿病を発症、他界前の数年間はインシュリン注射を打ちながら家事と仕事と学業をこなしていた。が、他界直前は人工透析を受けなければ生きられない身体だったが、直接の死因は肺がんだった。
 糖尿病といえば祖母も糖尿病だったので、その病気は遺伝するらしいので、糖尿病になった姉が私に、「おまえも糖尿病になる!」との言葉を放ったが、72歳になった今の私だが、健康診断結果では糖尿病のケはない。
 先のことはわからないが、私が糖尿病でない理由は金欠病のため粗末な食事だったこと、移動は自転車か徒歩だったことなど、贅沢とは縁がない暮らしが良かったのかもしれない。
 私が思うに、姉が糖尿病になった原因は富裕だったゆえに贅沢な食生活とどこに行くのも車のせいだったかもしれない。
 私自身は肩凝り症のため、30歳からスポーツクラブに通っていたが、家庭と仕事と学業で多忙すぎた姉はスポーツクラブに通う時間的な余裕がなかったのだろう。
 私たち姉妹は同じ親から生まれてはいるが、外観は少しは似ていたが、中身は全く異なっていた。
 姉は私と会う都度、小言を放ったが、姉が黄泉の国の住人となった今、浴びた小言のあれこれが懐かしい。
 末っ子の私は元来の甘ったれだが、父も母も姉も兄もこの世から去った今、甘える相手を失ったことがたまらなく寂しい。
    (続く、第94回)