小説、その2「井森家の記憶」

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古希の三人娘(第10回)

第10回(11/21)
 義母は口八丁手八丁だったのだが、達者な頃は、「あたしは心臓弁膜症、ころりと逝くから安心しな、絶対、あんたの世話にはならない!」と、嫁の春子に豪語していたのだが、六十九歳で認知症を発症し、それ以降はひとの世話にならなければ生きられない身となって、十七年間の要介護年数を要して、最期は八十六歳で老衰で没した。
 で、心臓が悪かった両親を持つ昭夫はそのDNAを受け継いで心臓が悪いのだろうが、義父母をみていた春子は、昭夫のお迎えはまだまだ先、と、踏んでいる。
 昭夫の下血は血液をさらさらにする薬を飲み始めて十年めから副作用として始まったのだが、今度で八回目で、初めての下血の時は、春子は大腸がンではないか、と、思ったのだが、昭夫は一週間の入院で、元の生活に戻れた。
 過去の下血で一番ひどかったのは二年前で、その時は出血が多くて死にそうになったのだが、トイレを血で汚したのだが、今度の下血はトイレを血で汚してないので、そんなに多くはないのだろう。
 今度の八回めの下血は一日めは安静にして絶食、二日目は少し動いて重湯、三日めから五日めはおかゆかうどん、以後は普通食に戻したのだが、今度の下血は病院に行かずに、止まってくれたのだが、この一週間の昭夫は元々痩せ体質のうえ、消化にいい物しか腹に入れなかったので、体重が二キロも落ちてしまったのだが、またこれから奮起してカロリーの高い物を体内にとり入れれば、元の体重に戻るだろう。
 昭夫は下血が始まってからの最初の二日間を、血液さらさらの薬の服用をやめてしまったのだが、その薬は出血を止めにくくする副作用はあるものの、素人の判断で勝手にやめると、血栓ができてしまい、その血栓が脳に飛ぶと重篤な脳梗塞を起こすそうで、下手をすると植物人間になってしまうそうで、春子としては服用をやめた昭夫の二日間が気が気でなかった。
 叶うなら、下血が始まったらただちに病院に駆けつけてもらいたいのだが、ひとのいうことを聞かない昭夫なので、今回は自宅で様子をみるしかなかっただが、まっ! 今回は無事に済んでよかった、と、胸を撫でおろす。  (続く、第11回)