小説、その2「井森家の記憶」

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井森家の記憶(第61回)

(9)なぜゴミ屋敷に?
第61回(6/15)
 兄嫁と私の関係は、ふた親が元気な頃はどこにでもあるような義姉妹だったと思う。
 その関係がぎくしゃくし始めたのは、親が要介護状態になってからだと、思う。
 娘の私としてはつい我が親のことを悪く言ってしまうものの、そこは血の繋がった親子だからこその甘えから来ているのだった。
 長男の嫁の私は義父母の面倒をみるもの、と、思いこんでいたので、自分なりに義父母の面倒をみているつもりだった。
 だが、兄嫁は井森家の敷地内に住んでいるにもかかわらず、私の親をみる気がないようだった。
 ある日、自分の親兄弟と温泉旅行に出かけた兄嫁は私にこう言った。
「あたし、こっちの親より、自分の親の方が大事!」
 兄嫁の父親は若くして亡くなっており、母親だけなのだが、その母親の最後は、兄嫁の話では、「足が悪くて、家のなかで四つん這いになって家事をしてる」だった。
 兄嫁の実家は母親と独身の弟、ふたり暮らしだった。
 ところが、自分の親の方が大事と私に告げた兄嫁だったのだが、兄嫁が電車で一時間の距離にある自分の実家に足を運んだ話はとんと聞いてない。
 そのうち、足が不自由な兄嫁の母親は、兄嫁が白内障の手術で入院してる最中に、自宅で亡くなったという。
 井森家のふた親が元気な頃は、姉と兄夫婦と私の四人で、兄が運転する車で中央高速を通って日帰りで父の里、山梨に葬儀やらの用事で何度か出向いていたが、その時はどこにでもある義姉妹だった、と、思う。
     (続く、第62回)