小説、その2「井森家の記憶」

よろしかったら、読んでください

井森家の記憶(第60回)

aruka

第60回(6/10)
 兄宅はM子の捨てられない物たちが、アリ塚のようにあちらこちらで円錐形の山を作っていた。
 その高さはダイニングテーブルが埋まるほどだから、一メートル以上だろう。
 後日、そのアリ塚の正体を見た私は、M子が十代の頃に身に着けたと思われる、あの頃より体重が増した現在のM子には片足も入らないだろう、ビキニのショーツやブラジャーを何十枚も認めた。
 どの部屋の窓にも薄汚れたカーテンがぶら下がっていた。
 ダイニングキッチンの窓際には、M子のブラジャーやシーツなどがみっつの物干しハンガーにぶら下がっていた。
 その数か月後、兄宅を訪れた私は、高さ一メートルほどのアリ塚、古着の山を片づけようと、45リットル入り、三袋のゴミ袋に納めたのだが、そんなことをしたところで、兄宅のゴミ屋敷が解消するはずもなかった。
 振り返れば、兄が、「オレを男にしてくれ」と、保土ヶ谷の親の敷地内に広い家さえ建てなければ、大和の三Kの家に住み続けてさえいれば、M子が物を次から次へと買っても、自宅にそれらを置く場所がないので、異常な買い物癖は生じず、ゴミ屋敷は避けられたかもしれない。
 兄嫁の死から一年が経った時、兄が肺がんで余命半年を宣告された。それからの私は兄の死まで週に一度は兄宅や病院を訪れるようになった。
 兄は昔から整理整頓が苦手だったが、私は、「男は家事が出来なくてもいい、外で働いてお金さえ運んでくればいい」「家事は基本的に女がする者」
と、思ってるせいか、家事をしない男には寛容の気があるが、家事をしない女には眉根を寄せる傾向がある。
 兄嫁は専業主婦だったので、てっきり整理整頓が苦手な兄をカバーしてくれるとばかり思いこんでいた。
    (続く、第61回)