小説、その2「井森家の記憶」

よろしかったら、読んでください

井森家の記憶(第27回)

第27回(2/17)
 クラス分けは選抜コースひとクラス、理科系大学、文科系大学、就職希望、家庭科コースと、五つだった。選抜コース以外は生徒本人が希望する進路によって、クラスを選ぶことができた。
 大学進学を希望していた私だったが、父が、「うちは女を大学に行かせる金なんか、ない!」と、両の目を吊り上げたので、泣く泣く大学進学を諦めて、就職クラスに身を置いた。とにもかくにも、井森家では父が絶対的な権限の持ち主だった。 
 中学時代は高校受験という目標があって勉強に励んだ私だったが、大学進学の希望を絶たれた私の高校時代は、学校の勉強そちのけで、読書とJRC(青少年赤十字)というクラブ活動に熱中した。
 JRCとはジュニアー・レッド・クロスの略なのだが、部室は木造二階校舎の階段下、L字型の狭い空間で、放課後になると部員たちが部室に集まっては、わいわいがやがや、しゃべりあった。
 その楽しそうな雰囲気から、JRCはジュニアー・レクレエーション・クラブ、と陰口をたたかれたりした。
 L字型の部室に合わせて、L字型の机がそなえてあった。机の真ん中には『落書き帳』と表された大学ノートがぽんとあり、部員たちはそのノートに思いの丈を記していた。
 理科系大学希望クラスのほとんどは男子、文科系大学希望クラスは男子と女子が半々、就職と家庭科クラスは女子のみだった。
 就職クラスに身を置いた私は、この高校の生徒たちには学力の差はあまりないのだから、大学に進学できる者は金持ちの子供、進学できない者は貧乏人の子供、と、経済格差を突きつけられているようだった。
 そんなわけで就職クラスにいた私はくそおもしろくもなく、クラスでは勉強に身が入らずの二、三年生を過ごしたのだった。
 (続く、第28回)