小説、その2「井森家の記憶」

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井森家の記憶(第14回)

(4)姉、真由子
第14回(1/7)
 姉の真由子は昭和18年1月に生まれて、2019年3月に死去した。享年76歳だった。
 姉は努力家で頑張り屋だった。努力して努力して、頑張って頑張り抜いて、一生を終えた。その努力と頑張りは見事に実を結び、家庭的にも経済的にも恵まれた人生だった。
 姉は四人の男の子を設けたのだが、四人の子供たちはすべて頭が良く、性格も良くで、四人とも慶応大学を卒業させて、四人ともが良き伴侶を得て、幸せな家庭生活を営んでいる。
 姉は2001年から二十年もの間、糖尿病を患っていたのだが、病気の治療をしいしい自営の工事会社の経理をし、更に五十歳からの十年間は大学、大学院、博士課程と学校に通い、ついに六十歳の時に経済博士となり、大学で教鞭をとっていた。
 姉は家庭と仕事と勉強、その他諸々なことに、と、ひとりで何人分もの人生を生きた。
 また行動的でもあり、ベンツを自ら運転して、気が向けばどこへでもひとりで出掛けた。
 終焉の場所は信濃町の慶応病院、一泊五万円の個室で、三か月間の入院の末、家族に見送られて息を引きとった。
 同じ親から生まれた姉妹だが、姉は妹の私からすれば別の世界にいるひとだった。
 母はそんな姉を、「なぜ、井森の家に、あんな子が生まれたんだろう?」と、首を傾げ、妹の私は私で、「普通の姉ちゃんが欲しかった」と、思い続けたのだが、その思いはとうとう叶わなかった。
  (続く、第15回)