小説、その2「井森家の記憶」

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井森家の記憶(第15回)

第15回(1/8)
そう思う私だが、内心が負けず嫌いの私としてはどんなに頑張っても姉に勝てない自分がもどかしかった。
 私たちが姉と妹だということを知られたくない、と、感じた時期があった。それは中学時代の担任教師の台詞、「おい、井森、おまえの姉さんは、おまえと大違いで、頭が良くて美人だってな」を、聞かされた中学時代だった。
 なぜ担任教師が姉を知っているのかというと、たまたま担任教師の妹が姉と同じ高校の同級生だったので、その妹から姉のことを色々と聞かされたらしい。
 担任教師のその台詞に、私は目に涙を浮かべて、「そぉー、ですか」と、うつむくしかなかった。
 姉は小学校から高校卒業まで学年で一番の成績だった。
 小学校で優秀だった姉は、教師から中高一貫の私立女子校を勧められた。身をセーラー服に包んで、市電に乗って山手のお嬢さん学校に通った。
 振り返れば、お金がない、お金がない、を連発していた母親だったのに、よく姉を私立中学に通わせる経済力があったものだ、と、不思議に思う。
 そして、小学校をオール三で卒業した私の中学校といえば、自宅から徒歩で二十分のごくごく庶民的な公立中学校だった。
 中学生といえば思春期真っ只中で、ひとの言葉に敏感に反応して、傷つきやすい頃だ。
 その時から私は中学校の三年間も同じ担任だった教師、「あたしが一番聞きたくない台詞を吐く先生なんか、大嫌い!」と、なった。
    (続く、第15回)