小説、その2「井森家の記憶」

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古希の三人娘(第47回)

第47回(6/6)
「その後、元気してる?」
 春子は久しぶりに富由美に電話をした。
「何とか、生きてるわよ」
 電話の声の富由美は明るかった。
「仕事は、その後、どぉーしてるの?」
「相も変わらず、老人ホームで週に二日、働いてる」
 富由美は春子と同じ年、古希だが、十歳は若く見えるし、頭の体もそんじょそこらの若い娘よりも動きが達者だ。
「コロナは、大丈夫なの?」
「うぅーん、どぉーかな、老人ホームはどうしても接触せずにはいられないから、ひとたびホームのひとりが感染したら、次々と広がって、クラスターになること、まちがいなしだわね」
「コロナって、怖いわね、ニュースによると、高齢者は重症化するそうね」
「ほんと、コロナって、嫌だわね、この年だもの、呼吸が苦しくなって、即、命が果てるならそれはそれでかまわないけど、苦しい、苦しい、で、揚げ句、人工呼吸器のお世話になって」
「まったく、嫌なものが流行ってしまったもんね」
「それも、日本だけじゃないんだもの、全世界中によ」
「新型コロナウイルスに有効な治療薬もワクチンもまだ開発されてないから、まったくもって、困ったもんだ、としか言えないわね」
「コロナ、あたしたちが生きてるうちに、終息するかしら?」
「さぁー、どぉーだか、コロナは未知の病気なので、この世の誰もが、さぁーと、首を傾げるだけ」
「でも、富由美は偉いわ、このコロナ禍、感染の大いなるリスクを全身に負って、老人ホームで働く富由美には頭が下がるわ」
「だって、あたし、看護師が天職だもの、看護師が生き甲斐だもの、仕事をしている時のあたしは、今正に生きてるって、充実感を覚えるのよ」
    (続く、第48回)