小説、その2「井森家の記憶」

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古希の三人娘(第38回)

第38回(1/31)
 男と女は基本的に脳の働きが異なる。
 アメリカのジョングレイという作家は、男は金星から、女は火星からやってきた、と、述べている。
 彼は著書の中で、男と女の脳の構造の違いを指摘、互いを完全に理解し合うことはおよそ不可能であると記している。
 富由美は基本的に集団行動が苦手で、同じ作業を誰かと一緒に行うと、手順が違うので、どちらかというと相手に合わせる富由美にとって、顔で笑って、心はいらいらしとなってしまうので、精神衛生上ひじょうによろしくない。
 青い空、白い雲、小春日和のいい天気である。
「富由美さん、お腹、空きませんか? どこかでお昼にしませんか?」
「えっ! もぉーそんな時間!」
 伊吹の声で我に返った。
 腕時計の針は午後一時を指していた。昨今の富由美は三食をきちんと決まった時刻にとるようにしている。朝食は午前七時、昼食は正午、夕食は午後六時。
 起床は午前六時半、一日に一度は買い物や散歩で外の空気に触れ、入浴は午後八時、就寝は午後十一時と、規則正しい生活をしている。
 そのせいだろうか、健康診断結果は今のところ、全項目異常なしで、下手をすると百歳まで生きるかもしれない。
「あそこにしませんか?」
 富由美が指さした先は、ラクダに乗った場所からすぐ近くの洒落たレストランだった。
「そぉーしましょう」
 伊吹が同意した。
「ここ、和風料理からイタリアン、フレンチまで、何でもありますね。あたし、カキフライ定食にします」
「僕も同じ物にします。ドリンクはどうしますか?」
「あたし、グラスビールを」
 動物園のなかを歩いたので、喉が渇いていた。
「僕はビールの、大ジョッキー」     (続く、第39回)