小説、その2「井森家の記憶」

よろしかったら、読んでください

井森家の記憶(第33回)

第33回(3/12)
 姉も私も結婚して子育てが始まった以後、実家に足繫く通うようになった。と、ともにそれぞれが我が家庭の出来事を母に電話で話すようになった。
 母は姉から電話をもらうと、必ずや私に電話をしてきて、姉からの電話の内容を事細かに話した。その母は思ったことは口に出さずにはいられない癖があった。
 その母の血を受け継いだ姉と私は、よくいえばほがらか、悪くいえば口が軽いで、いつもいつも、『口は災い門』のことわざを肝に銘じて生きる必要があったのだが、どうにもこうにも、これは口に出していいことか? と、頭で思うより先に口が勝手に動き出してしまうので、時には周囲の者に、「そのお口、チャック!」と、注意を受けた方が正解だったのかもしれない。
 母は姉から聞いた話をそのまま伝えることもあったのだが、大概は尾ひれをつけておもしろおかしく話すので、聞いた方の私はつい説得力のある母の話を丸ごと信じてしまう。
 母は私の打ち明け話の電話も、また姉に電話をかけて、これは我が胸に納めた方がいいだろう、もなく、すべてをあけすけに伝えたので、姉と私は直接会ったり、電話をしなくとも、母を介して双方の暮らしの様子が手に取るようにわかった。
 しかるに母は面と向かっては誉め上手だった。物心ついて以来、母は私を誉め通しだった。
      (続く、第34回)