小説、その2「井森家の記憶」

よろしかったら、読んでください

井森家の記憶(第32回)

第32回(3/9)
 それから姉は一年半後に次男、そのまた一年半後に三男を生み、更に、上の三人の子供たちと年が離れた四男を儲けた。
 年子と変わらない乳幼児三人の母親だった頃の姉は、三人めの妊娠時は膨らんだ腹の上に次男を抱き、長男を背負って、用事に出掛けていた。
 一方、二十一歳で結婚した私はといえば、新婚三か月で卵巣嚢腫が見つかって、嚢腫はふたつの卵巣に広がっており、医者は、「両方の卵巣を切除した方がいい」と、卵巣の全摘出を勧めたのだが、まだ二十一歳だった私はどうしても子供が欲しく、医師に必死に、「どうか、両方の卵巣をとらないでください」と、哀願した結果、執刀医がふたつの卵巣の良い部分だけを残してくれた。
 手術後、医者は私に、「腫瘍は良性でした。子供は出来るか、出来ないか、わからない」と、告げた。
 そんな体になった私は、次から次へと子供を生む姉がねたましかった。
 が、手術から三年後、私は身ごもった。卵巣嚢腫の執刀医に妊娠した旨を報告に行くと、「あの紙っぺらのような卵巣で、よくぞ、子供が出来たものだ! 信じられない! 奇跡です!」と、目を丸くした。
 姉の結婚からの三年間、OLだった私は、その間、姉とは疎遠だったが、我が子が一歳を過ぎた頃より、姉との行き来が始まった。
     (続く、第33回)