小説、その2「井森家の記憶」

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井森家の記憶(第46回)

第46回(4/27)
 概して、昔の男は気位が高い、とりわけ井森家の父は、「このオレ様が大黒柱だ、このオレ様の稼ぎが家族を食わせてやってるんだ!」が、服を着ているようで、「家族の者ども、このオレ様に従え!」という威張り屋だった。
 次女の私はそんな父が怖くて逆らう体力も気力もなく、父の言いなりだったのだが、兄もその傾向があったのだが、長女の姉は違っており、何かというと父に反発していた。
 その姉に父は真向から立ち向かい、それが井森家の争いの火種となったのだった。
 その火は姉を擁護する祖父母に移り、また母にも移り、そうなると家族揃っての夕餉の時間に包丁が登場する有り様になったりした。
 ある夜、父に歯向かった母は、父に顔面を殴られて、顔が腫れて紫色となり、お岩さんのようになった。
 その時、母は離婚の言葉を口にした。
 だが、あの時代、連れ合いと生き別れした学歴も手に職もない三人の子持ち女が、この世で生きていくことは酷すぎた。
 が、そんな激しい夫婦喧嘩の後でも、夜になると、母が父と布団を並べて寝ていたので、私は夫婦とは不可解なものだ、と、首を傾げた。
 井森家の者たちは目の上のたんこぶの父の元、暮らしていたのだが、母がほがらかだったせいか、常日頃は笑いがあったりする生活が営まれていた。
 とにもかくにも、井森家は祖父母と姉、父と母と兄と私、家族が三人と四人に分かれていたように思う。
   (続く、第47回)