古希の三人娘(第40回)
第40回(2/7)
「ひとり暮らしは、健康でさえいれば最高ですもんね」
「はい、他界した妻には誠に申し訳ないのですが、我が人生、今が最高ですね。若い頃から好きだった文学の世界に思う存分浸られて、ひがな一日、読みたければ本を開いたり、創作をしたくなれば、小説を書いたり、外の空気を吸いたくなれば、買い物や散歩に出たりすれば、気が晴れます。まったくもって、一日の二十四時間を自分のためにだけ使えるということは何と贅沢なことなんだろうと思います」
どうやら伊吹も富由美と同種の人間で、ひとりでいるのが好きらしい。これが妻が亡くなって寂しい、つまらない、毎日何をしていいのかわからない、と、嘆きの台詞のオンパレードだったら、富由美はただちに伊吹から逃げだすだろう。
独居となった高齢者は、男も女も最後の最期までひとを当てにせず、死に至るまでの間、精神的に自立していることが必須だろう。
そう思えば、高齢者にとって最も発症してほしくない認知症も恐れをなして寄りつかないだろう。
そもそも趣味が小説書きという人間は、本質的には孤独を好むものだ。なぜならば、小説はひとと話しながらでは創作に没頭できないからだ。
看護師の仕事が性に合っている富由美は、古希になった今だが、次なる看護師の仕事を探している。幸い、身体は丈夫なので、今現在の体力は五十歳の頃と同じと自分では思っているので、働ける場所さえあれば、働くつもりだ。
生活は年金で充分賄えるのだが、なんせ、老いても、健康な人間には自分を必要としてくれる場がある方がいい。
(続く、第41回)
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