小説、その2「井森家の記憶」

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井森家の記憶(第18回)

aruka

第18回(1/19)
 だが、井森家の面々、とりわけ母は思ったことをすぐ口に出す癖があった。
 母のおしゃべりは相手、時、所かまわず、実際のことよりオーバーにおもしろおかしく話すので、話題にされた家族はたまったもんじゃない。
 大方の者は内容によって話す相手を選ぶものだが、母の場合は頭に浮かんだが最後、口がむずむずして、たまたまその場に耳を傾けてくれそうな者がいれば、誰にでも話す。
 話し相手は富山の薬売り、煙突掃除屋、外出先で出会ったその他諸々だった。
 しかし、自分が思っていることを、これを話して相手がどう思うかを考えないで口に出すことは、知らぬ間に相手を傷つけてしまうことが多々ある。
 どうやらこの格言は井森家の面々のためにあるようだ。
『口は禍の門』
 うっかり吐いた言葉から禍を招くことがあるから、言葉を慎むべきである、という戒めだが、
 井森家の全員がこの格言を心に刻み続けていたら、井森家の家族間に争いは生じなかっただろう。
 来客でより一層饒舌となった母は、「話はご馳走のひとつだよ」と、言っていた。が、井森家の面々はひとの話を聞くよりも自分の話しを聞かせたい癖があった。
『聞き上手』という言葉があるが、井森家の面々はその言葉が苦手だったのかもしれない。
  (続く、第19回)