古希の三人娘(第60回)エピローグその1
第60回(7/3)
エピローグ(その1)富由美
自宅に戻った富由美は久しぶりに古希の三人娘で会った余韻に浸っていた。
「お母さん、今日はとっても楽しかった。お母さんが亡くなってから、家であたしただひとり、いつも胸には寂しさが渦巻いてるけど、それはあたしが勝手に未婚の人生を選んだんだから、しかたないわよね」
「だから、常々いいひとを見つけて結婚しなさいって、言ってたでしょ?」
母の遺影が苦笑いした。
「ところで、伊吹さんとはその後、どぉーなってるの?」
母の遺影が尋ねた。
「それがね、このコロナ渦で、感染者が多い東京を歩いて、そのあと仲間たちと飲み食いする江戸歩きの会は、コロナ感染危険大だから、と、解散になってしまってね、会以外で伊吹さんと会おうにも、コロナ渦で、そのうえあたし、感染の危険が高い看護師の仕事を始めてしまったもんだから、伊吹さんに感染させてしまったら申し訳ないので、当分の間、会わないことにしたのよ」
「当分の間って、いつまで?」
遺影の母は富由美に男友達ができたことを喜んでいた。
「コロナ、終息の見通しがまったく立たないけど、いくら何でも十年後には新型コロナウイルスが終息してるだろうと、伊吹さんに、十年経ったら一緒に暮らさない? と、言ったら、いいですよ、僕、八十二歳まで小説を書き続けて、それまでに必ずや新人賞をとりますから、と」
「八十二歳の新人賞作家、素敵じゃないの!」
遺影の母がぱちぱちと拍手した。
「あたしはあと十年は看護師の仕事を続ける。なんといっても看護師はあたしの天職だもの」
「あなたたちは互いがそれぞれ自分の世界を持ってるから、ふたりともが変な風に相手に寄りかからない似た者同士かもね」
遺影の母が笑顔を見せた。
「今のあたしたちわね、時折、メールか電話で連絡しあって互いの安否確認をしてるけど、このコロナ渦じゃあー、何かあった場合コロナに感染してる可能性があるので、寂しいけど、お互いのために知らぬ振りを決めこみましょうねって」
「よくよく考えてみれば、コロナ渦以前に死んだあたしはいい死に時だったかもしれないね」
「そうよ、お母さんは娘のあたしに介護されて、娘のあたしに最期を看取られたんだもの」
母の遺影に語る富由美は、一瞬、コロナ渦の今の時代に身を置く自分に号泣しそうになったが、ここで泣き叫んでも同情してくれる者は誰もいない、生きてる者は生きるしかない、と、唇を強く噛んだのだった。
(続く、第62回)
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