第58回(6/29) 「明枝が亡くなってちょうど一年」 真央が感慨深げに言った。 「明枝と真央と春子とあたし、四人、あちこちで遊んだ、実に楽しい時間を過ごさせてもらった」 富由美が遠くに浮かぶ白い雲に目をやりながら、言った。 「その四人が三人になってしまったけど、あたしたち三人、いつまでも達者... 続きをみる
2020年6月のブログ記事
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第57回(6/26) 帰宅した春子が夕ご飯の支度を済ませた時、電話が鳴った。出ると、富由美であった。 富由美には、「今日、真央と夢が丘で会う」と、メールをしておいた。 「今、大丈夫?」 「大丈夫よ、ダンナ、先に夕ご飯食べさせたから」 春子の夫、七十六歳の昭夫の現在の仕事はといえば、午前と午後... 続きをみる
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第56回(6/24) 「あぁー、さっぱりする!」 ファミリーレストラン、ガスタをあとにしたふたりは周囲ににひとがいなかったので、マスクを外した。 コロナ渦では感染させない、感染しない予防のためにマスクをつけなければならないのだが、暑い時期のマスクは蒸れて、身体中でマスク装着部分が一番汗をかく。... 続きをみる
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第55回(6/22) 「春子と会えて話しができてほんとによかった。やっぱ、ひとって生身の人間と会うことが大事よね。自粛でスティホーム以前のあたしは、毎日あちこち飛びまわってた。話し相手にこと欠かなかった、寂しさを感じる間がなかった。自分の身に何かあれば、知り合いの誰かに連絡すればすぐさま駆けつけて... 続きをみる
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第54回(6/18) 「ところで話はがらりと変わるけど、悠太君、どうしてる?」 悠太は真央のひとり息子で、四十五歳、結婚して孫がいる。 「おかげさまで、コロナのおかげで、互いに連絡しても会うことはできないし、だもんで、知らぬが仏、で、悠太一家については、今のところ、何の悩みもないわ」 「そぉー、... 続きをみる
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第53回(6/16) 注文した料理が運ばれてきた。 ひとに食事を作ってもらい、ひとに食事を運んでもらうことはなんと贅沢なのだろう。 自宅にいる限りの春子は、自分で料理を作って、作ったものは自分で食卓に運んでいる。 外食で気の合う者とのおしゃべりは、春子にとって至福の時間なのだが、コロナ禍と... 続きをみる
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第52回(6/14) アクリル板とフェイスシールドとマスクで春子と仕切られた真央がぽつぽつと口をきき始めた。 今日の真央は小声で静かな口調で話す。 コロナ禍の今、ひとと話す際は、飛沫を飛ばさないように小声で静かに、が、国の定めである。 「緊急事態宣言以来、ひとり暮らしの身では、誰とも会えず、... 続きをみる
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第51回(6/12) 高齢者となった春子は、もし我が身に何かあった時は、娘たちが何とかしてくれるだろう、と、胸の奥深くにひそかなスケベ根性を持っていたのだが、コロナ禍以後は、このご時世、若い者たちは我が暮らしを守ることで精いっぱいで、親などみる余裕はない、と思うようになっており、けして子供たちを... 続きをみる
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第50回(6/10) 今年は六月だというのに、早くも真夏の暑さになった。テレビではしきりに、「熱中症に気をつけるように」と、報道している。 コロナ禍の今、外出にはマスクをつけなければいけないのだが、暑くなってからの春子はマスクをつけていると酸欠になったように、頭が朦朧としてくる。 ただし、二... 続きをみる
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第49回(6/8) 「富由美はいいわね、古希になっても生き甲斐があって」 「うぅーん、そぉーねぇー、そこにあたしがいなければ、という我が居場所があると、人間、全身から生きる意欲がわいてくるから不思議ね。そぉーいう春子だって、近くに娘さんとお孫さんがいて、あたしがいなければ、じゃないの?」 「その通... 続きをみる
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第47回(6/6) 「その後、元気してる?」 春子は久しぶりに富由美に電話をした。 「何とか、生きてるわよ」 電話の声の富由美は明るかった。 「仕事は、その後、どぉーしてるの?」 「相も変わらず、老人ホームで週に二日、働いてる」 富由美は春子と同じ年、古希だが、十歳は若く見えるし、頭の体もそ... 続きをみる