小説、その2「井森家の記憶」

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井森家の記憶(第75回)

aruka

第75回(8/6)
 やせ型で生真面目な父と小太りで大ざっぱな母はある意味でいいコンビだったかもしれない。
 兄は体格も性格も金銭感覚も父とは対照的だった。
 友達が多い兄は、最後の最期まであの友達、この友達と付き合っていた。
 兄嫁の友達付き合いに関しては知るよしもないが、ただ義妹の私とは親戚付き合い以上の交際はしたくなかったようだった。
 兄はひとに物を送ることをよくやっていたが、兄嫁はその役を兄に一任していたらしい。
 私が思うに、ひとに何かをあげればもらった相手はもちろんうれしいが、あげた方もひとを喜ばせるうれしさを味わえるはずだ。
 兄嫁の常套句は、「正樹さんの金遣いが荒い、お金がなくて困ってる」だった。
 兄嫁が時たま寄こす電話といえば、金一封を送ったお礼のみで、義妹家族を案ずる言葉はひとつもなかった。
 七十二歳で没した兄は、グルメ志向ゼロの父とは正反対で、食道楽だった。おそらく一生分を飲んで、食べて、この世を去ったのだろう。
 兄夫婦は私が思うに、兄が陽で、嫁は陰だった。
 独断と偏見で言わせてもらえば、その家が栄えるかどうかは、その家の主婦次第ではないだろうか。
    (続く、第76回)