井森家の記憶(第40回)
第40回(4/6)
炭焼き小屋見物のあとはいったん父の里に戻って、叔母がお昼にと用意してくれたおむすびを忠男が自分用の背負い籠に入れて、反対側の山へ向かった。
先頭は忠男、兄と私が後に続いた。
五月上旬であった、静かな山道を歩いていると、ホッホケキョーの声が辺り一面に響いた。
その時、私は生まれて初めてウグイスの声を耳にしたのだが、その世にも美しい鳴き声に胸を打たれた。
ワラビにゼンマイ、ヤマウド、山菜に詳しい忠男が次から次へと食用になるものを見つけて、自分が背負っている籠に放りこんでいく。
動きっぷりがいい忠男は、よく働く小学一年生だった。
見晴らしがいい山の頂上に到達した時、忠男が、「ここでお昼にしようや」と、言った。
叔母お手製のおむすびは大きくて、三角に結んだご飯に塩をふりかけた物だったが、山歩きでお腹が空いた私には、そのおむすびが殊の外おいしく感じた。
父の里、二日目の夜は秋山村の親戚の家を何軒か訪問した。
先頭の忠男が持つ懐中電灯の光を頼りに秋山村の夜道を進んでいると、耳にカエルの大合唱の声がつんざいた。
と、その時、懐中電灯を持つ忠男が、スイッチをオフにした。とたん、どんなに目を凝らしても視界が真っ黒で、何も見えない恐ろしい世界が繰り広げられた。
街灯がない秋山村の夜道は、懐中電灯なしでは歩けないのだった。
(続く、第41回)
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